ドラァグクイーンとトランスジェンダーの人々をモデルにした画期的なポートレイトシリーズ「Ladies and Gentlemen（紳士淑女）」シリーズ

本作品は、ポラロイドカメラで撮影した写真を拡大し、シルクスクリーンでプリントする、ポラロイドカメラを活用したウォーホルならではの手法で製作された。

製作のきっかけとなったのは、1975年、イタリアの美術商ルチアーノ・アンセルミノ（長く交流のあったシュルレアリスムを代表する写真家マン・レイをウォーホルに紹介し、マン・レイのポートレートシリーズを持ちかけた人物）が、ウォーホルに「無名、匿名」のポートレイトシリーズの制作を依頼したことが始まりだった。ウォーホルがこの製作依頼に同意し、ドラァグクイーンのパフォーマンスを彷彿とさせる「Ladies and Gentlemen」と題したシリーズの制作が決定し、スタジオ近くのクラブで、黒人やラテン系のドラァグクイーンやトランスジェンダー女性14名がスカウトされ、被写体となったが、当時、名のあるアーティストがこうした人々を扱った例はなかった。

また、マリリン・モンローをはじめ、ミック・ジャガー、エルヴィス・プレスリー、イヴ・サン＝ローランなど、数々の著名人のポートレイトを手掛けてきたウォーホルだったが、本作品では、14名のほぼ無名のモデルを起用し、2014年まで、モデルの名前すら公表されていなかった。ウォーホル財団の研究によって13人の名前が特定されたが、14人目はいまだ不明であり、13人についても詳細はほとんど分かっていない。
この背景には、セクシャルマイノリティが差別される危惧に加え、そもそも匿名性を重視した企画だったことが挙げられ、モデルのスカウトにあたっては、撮影者がウォーホルであることも隠そうとしていたという。

もともと100点程度の依頼だったものが膨れ上がり、ウォーホルは自身で撮影した500枚以上のポラロイド写真をもとに、268点の絵画、65点のドローイング、10点のスクリーンプリントを制作され、ウォーホルの中でも作品数が多いシリーズのひとつとなった。
本スクリーンプリントに使用されているのものは、シリーズを代表する10点として、膨大な写真の中からウォーホルが慎重に選び抜いたものである。